学校法人森友学園前理事長・籠池泰典氏とその夫人諄子氏が逮捕されてから20日。
勾留期限を迎えた8月21日、大阪地検特捜部は籠池夫妻を当初の逮捕事由とは別の詐欺容疑で再逮捕。これで夫妻の勾留はあとしばらく続くことが決定した。
夫妻逮捕後、この2月から政権を揺るがすまでに発展した「森友事件」の焦点は、「あの夫妻の犯した詐欺」に移りつつある。
だが、森友事件の核心は、「9億円の土地が1億数千万まで値下げされた」という国有地不当廉売であることに変わりはない。国会で野党のみならず、与党の一部からさえも批判の声があがったのは、国と森友学園との国有地売買契約の経緯に関する説明があまりにも粗雑であるからに他ならない。また、本件を、大阪府警ではなく、大阪地検特捜部が捜査していることも、「政・官へ捜査の手が伸びる可能性がある」からに他ならない。
だからこそメディア各社は籠池夫妻逮捕後も、土地取引に関する新たな情報を入手するたびに、大々的に報じてきた。
●森友の現場写真「ごみ判別不能」 8.2億円値引き根拠(朝日新聞)
●財務局「いくらなら買える」 国有地巡り森友関係者証言(朝日新聞)
●森友学園 「土壌汚染」で交渉 国有地値引き画策(毎日新聞)
そんな中でも、籠池夫妻逮捕後から「殊勲」を挙げ続けている報道機関がある。意外かも知れぬが、フジサンケイグループだ。
◆関西テレビの独占入手音声スクープ
© HARBOR BUSINESS Online 提供 籠池諄子氏の手帳には「5月18日 池田」という記載が
まず直近の事例から。
8月23日の「産経新聞」朝刊に掲載された『「森友」交渉記録、電子鑑識へ PCデータ復元、国有地売却交渉を究明』という記事では、「(大阪地検特捜部が)パソコンに残るデータを解析する技術「デジタルフォレンジック」(DF)を使い、売却の交渉記録を電子鑑識する方向で検討していることが21日、関係者への取材で分かった」と報道。地味な記事ながらも、「大阪地検特捜部が財務省をも捜査している」と断言する点が他社報道と大きく違う。ここまで断言して書くからには、おそらく地検特捜部から確たる証言が得られているのだろう。しかも「パソコン上のデータをDF技術を使って復元してでも調べる」との証言だ。もしこの証言どおり地検特捜部の捜査が進めば、「パソコン上のデータは全て消去した」という答弁を繰り返した財務省の佐川理財局長(当時)の答弁が全て嘘だったという結果に繋がりかねない。政権寄りの報道が多い産経新聞としてはかなり踏み込んだ報道だ。
さらに驚くべきなのは、フジテレビ系の在阪ローカル局・関西テレビの動きだろう。
同局は、籠池夫妻逮捕直後の8月1日、「籠池夫妻と財務省近畿財務局の告諭財産統括官・池田氏の交渉音声データ」を独占入手したと報道した。
同局およびFNNの報道によると、この音声データには、池田統括官による「できるだけ早く価格を提示させていただいて」と言う発言や「その分(前年度に森友学園に対して国が支払った有益費=1億3千万)ぐらいは少なくとも売却価格がでてくると」と発言する様子が収められているという。これも、佐川理財局長(当時)による「財務省がわから値段についての提示をしたことはない」との国会答弁を完全に覆す内容だ。もしこの音声データが3月時点で発見されていれば、佐川理財局長の国会証人喚問や罷免は免れなかっただろう。
この報道がでた直後から、メディア各社は沸き立った。関西テレビでこの音声データの第一報が流れた瞬間から、森友事件を取材する記者やジャーナリストの電話は鳴りっぱなし。みなが口々に「あの音声データどっからでたのだ?」「なんで今頃でてきたのだ!」と相互に質問する。みな、フジサンケイグループにスクープを抜かれて悔しかったのだ。
かく言う筆者もその一人。森友事件を早くから取材し、籠池夫妻から膨大な資料の提供を受けていながら、この音声データの存在にたどり着けなかった。籠池夫妻およびその関係者の保有していたICレコーダーの類いは全て聞き込み、文字起こしまでしているというにもかかわらず、この音声データだけは発見することができなかった。
あれから約20日。
この悔しさをバネにもう一度取材を重ね、「データの残っていそうな箇所」をしらみつぶしに当たりつづけた。
そしてようやく、この音声データにたどり着いたのだ。
◆「いつ」、「どこで」交渉は行われたのか?
今回、この記事では音声データを一部を除いて原則的に無編集で公開する。
繰り返しになるが、この音声データの主要部分は既に関西テレビおよびFNNが報道している。そのためと「いまさら同じ音声を公開しても意味はない」と思われるかもしれないが、FNNの報道には「触れられていない」ポイントが2つある。
まず、FNN報道時点で判明していなかったのは、この交渉がいつ行われたかというポイント。報道では「2016年5月中旬から下旬」とされているが、今回、この音声データにもとづき関係各所を取材したところ、交渉が行われたのは、2,016年5月18日であると判明した。籠池夫人の手帳に、確かに「きんざい 池田」との文字が残っている
もう一つFNNの報道では触れられていなかったのが、この交渉がどこでおこなわれたのか?というポイント。
音声データをよく聴いて欲しい。ときおり「ぎゅいぎゅい」というノイズが入ることがわかるだろう。これは皮のソファーが軋む音だ。そしてもう一つ。この音声データの背景には子供たちの遊ぶ声が混ざり込んでいる。さらにもう一つ。園児の個人名が入ってしまっているため今回公開分では「ピー音」で上書きしているが、「校内放送」の音声が入り込んでいる。
籠池泰典氏が塚本幼稚園で陣取るのは「園長室」と呼ばれる部屋。その部屋には本革でできた大きなソファーセットが設置されている。子供たちの歓声が入り込むのは園庭で遊ぶ子供たちの声が園長室にも聞こえるからだ。そして「校内放送」が入り込む。
つまり、この籠池夫妻と近畿財務局の池田統括官の交渉は、塚本幼稚園でなされたということだ。
音声データ発見後、退職者を含む複数の財務省関係者に話を聞いたが、「売り払い交渉にもかかわらず、財務省側が、購入希望者のもとに出向くことは考えられない」と口をそろえる。当然だろう。一般常識として考えても、監査や査察でもない限り財務省側から人が出向いてくるなど考えられないだろう。
そしてその交渉で、池田統括官はわざわざ自ら塚本幼稚園に出向き、「できるだけ早く価格呈示をさせていただいてちょっとずつ土壌も処分しているけど ですので そこそこの撤去費 われわれの見込んでいる金額よりも少なくても我々は何も言わない」などと発言している。
確かに、この交渉で、籠池夫妻側は、ダイオキシンの話を持ち出したり、夫人が錯乱したりなどして、さらなる値下げを求めている。錯乱する籠池夫人の姿は見苦しく、通常の交渉とは思えない様子だ。
しかし物を買う側が値切るのは当然のこと。そしてもしその値切りが不当であれば国有地をあずかる財務省側が「貴方の要求は不当です」と突っぱねればよいだけのことでしかない。
だが、音声データを注意深く最後まで聞いていただきたいのだが、この交渉の結末で財務省側は、「1億3千万以下への値下げは厳しいが10年分割の支払いなら可能」とさらなるオプションを提示しているのだ。
池田統括官による値段の提示、財務省側からの「10年分割の提案」。これらはすべて、これまでの佐川理財局長(当時)の国会答弁を完全に覆すものだ。
本来であれば文字起こし等を添えて公開すべきだろうが、緊急性と重要性に鑑み、まずは音声データだけそのままの形で公開する。
この音声データの意要性は次稿以降で詳しく解説するとして、まずは是非、全編を聞いて欲しい。
⇒【音声データ】http://youtu.be/aoRXoDei8To
⇒【音声データ】http://youtu.be/tcFBX7KrtyU
<取材・文/菅野完 取材協力/赤澤竜也>