ジム・ロジャーズ

表通りは賑やかだ。株高に沸く市場関係者に、好決算を喜ぶ大企業。が、裏通りに入ると風景は一変。日本経済を崩壊させる地雷がそこかしこに……。著名投資家が明かした「日本の不都合な真実」。

世界はもう気づいている

「もし私がいま10歳の日本人ならば……」

著名投資家のジム・ロジャーズ氏はそこまで言うと、少し考えるように間を置いた。
米国の投資情報ラジオ番組『Stansberry Investor Hour』に登場し、インタビュアーから日本経済についての見解を聞かれた時のことだった。

ロジャーズ氏は少しの沈黙の後、意を決したかのように衝撃的な「答え」を語り出した。

「もし私がいま10歳の日本人ならば……。

そう、私は自分自身にAK-47を購入するか、もしくは、この国を去ることを選ぶだろう。

なぜなら、いま10歳の日本人である彼、彼女たちは、これからの人生で大惨事に見舞われるだろうからだ」

AK-47とは、『カラシニコフ』の名で知られる旧ソ連開発の自動小銃のこと。インタビュアーは神妙な声色で、「とても興味深い答えだ」と応じたのである。

このラジオ番組が配信開始されたのは11月。インターネット上で誰でも視聴できるため、気が付いた世界中のマーケット関係者の間でたちまち話題になっている。

日本経済はいま戦後2番目に長い好景気局面に突入し、日本株は史上初の16連騰を演じたばかり。市場関係者たちが日本株の活況に沸いているその最中、「不気味な提言」をした真意はいったい何なのか。

ロジャーズ氏といえば、ジョージ・ソロス氏、ウォーレン・バフェット氏と並ぶ世界三大投資家の一人として知られる。かつてソロス氏とともに手掛けた『クォンタム・ファンド』では、10年で4000%という驚異的なパフォーマンスを残したことはいまも語り草。

75歳になったいまもシンガポールを拠点に活動し、最近ではミャンマー経済の隆盛に賭けた投資で大儲けするなど、その一挙手一投足に注目が集まる。

今回本誌は、そんなロジャーズ氏への単独インタビューに成功。ロジャーズ氏はラジオ番組での発言の真意から、日本経済の展望、現在の投資先までを率直に明かした。

「私はいま日本株を買い増している。ただ、日本の未来を楽観しているわけではない」

そう前置きしたうえでロジャーズ氏が語り出したのは、あまりに詳細でゾッとする日本経済の「未来の年表」だった。

――あなたが「もし私がいま10歳の日本人ならば……」として語った番組が話題になっています。

「まず言いたいのは、私は日本が大好きだということです。世界の国々の中でも大好きな国の一つです。だから、日本が衰退していく姿を見たくないのです。私は死ぬまで大好きな寿司を食べていたい。しかし、このままいけば私のそうした願いはかないそうにありません」

いまの50代以上はセーフ

――いま日本は景気拡大期間が戦後2番目に長い好景気局面で、日本株も約26年ぶりの高値です。活況に沸いていますが。

「いま日本株が上昇しているのは、黒田東彦総裁が率いる日本銀行がジャブジャブに紙幣を刷ったうえ、日本株や日本国債をたくさん買っているからにほかなりません。

紙幣が刷られると株価が上がるというのは市場の歴史が証明していることであり、ほぼあらゆる投資家たちがそのルールに忠実に行動しているまでです。

それに、日本株は1989年末につけた3万8915円よりまだ4割以上も低い。アメリカやヨーロッパの株式市場が史上最高値に達しているのとくらべてまだ上昇余地があるとして、多くのマネーが日本株に流れ込んでいる。

このような状況は、日本の株を持っている私のような投資家には非常に好都合です。儲けが得られますからね。だから、私自身は日本銀行に感謝しているし、日本の株を持っている世界中の投資家たちも日本銀行に感謝していることでしょう。しかし、日本人にとってはまったくいい状況とはいえない」

――どういうことですか。

「日本株はこれからも大きく上がるでしょう。私自身、数週間前に日本の株を買い足しました。日本銀行がいまの金融政策を続ける限り、私は日本の株を所有し続けるつもりです。

しかし、この日本株の活況はあくまでも日本政府が人工的に株価を上げているに過ぎないという点が重要です。日本の景気にしても、異次元の金融緩和で円という通貨の価値を切り下げたことで、一部の大手企業がその恩恵を得ているだけ。

そもそも円安になり、株価が上がったことで、日本人の生活や暮らしはよくなりましたか。答えは『NO』でしょう。

アベノミクスといわれる経済政策は、短期的に投資家や大企業を潤すだけ。アベノミクスが非常に危険なのは、それが人工的に低金利の状況を作って、借金をしやすくしていることです」

――活況の裏で借金問題がいよいよ危険水域になっている、と。

「その通りです。ご存じの通り、日本はいまGDPの240%、じつに1000兆円を超す巨額赤字を抱えています。そのうえ、猛烈なペースで進む人口減少社会に突入してきたため、とてもじゃないがこの借金を返済することはできない状況になってきました。

いま50歳前後の中年の日本人であれば、30年後は80歳ですから、誰かがケアしてくれるかもしれません。日本の国庫には、老齢人口を支えるおカネはまだ残っているでしょう。しかし、30年後に40歳になる日本人には、老後を支えてくれる人もカネもない。

このままいけば、いま日本人の10歳の子どもが40歳になる頃には、日本は大変なトラブルを抱えていることでしょう。小さな子どもの日本人にとって、未来はすでに『短い』わけです」

日本株はまだ上がる

――だから、あなたがもし10歳の日本人ならば、カラシニコフを手に取る。

「いますぐに日本政府が手段を講じない限り、日本は将来的に『破産』することになります。それは計算すれば誰でも簡単にわかることです。私はなにもクレイジーなことを言っているわけではなく、事実を言っているのです。

借金は毎年膨張し、人口は毎年減少し続けているのだから、必ずそのツケが回ってきます。

もちろん、それは6ヵ月後とか20週間後に起きるわけではありません。短期的には、日本の株価はまだ上昇するでしょう。

しかし、20年後、30年後には、日本が大惨事に襲われている可能性は十分にあるということです。20年後に振り返った時には、安倍晋三首相は日本経済を破壊させた張本人として歴史に名を刻んでいるでしょうね」

――そんな日本の「破産」は避けられないものでしょうか。「未来の年表」を書き換えることはできませんか。

「可能ですよ。まず財政支出を大幅に削減し、さらに減税をする。この2つを断行するだけで、状況は劇的に改善します。簡単なことなのです。

しかし、いま安倍首相がやっているのは真逆のことでしょう。ただでさえ莫大な借金をさらに膨らませたうえで、無駄な橋や高速道路を作ろうとしている様は狂気の沙汰としか思えません。

消費税を増税すると言っていますが、これも新たな橋や道路にカネがつぎ込まれるのがオチです。安倍首相と彼の側近たちは、財政支出をカットしたら選挙にマイナスとなると考えている。つまり、彼らは日本の未来より選挙に勝つことを重視しているわけです。

借金をこんなに増やして平気な顔でいられるのも、返済をするのはあくまで後世の人間で、自分が死んだ後のことだと考えているからでしょう。そうした負担をすべて押し付けられるのが日本の若い世代なのです」

――人口減少問題への対応も後手に回っています。

「人口動態を大きく変えるには、日本人に子どもをたくさん作ってもらうか、日本が移民を受け入れるかの2つしか方法はありません。しかし、なぜだかわかりませんか、日本政府は移民を受け入れようとしません。

結局、いま10歳の日本人が人生を通して経験していくのは、次のような『惨事』になるのでしょう。

これからの日本では生まれてくる子どもの数がますます少なくなり、移民も入ってこないため、人口減少のスピードが急加速していく。

借金はさらに膨張し、その返済のために増税が度々断行される。それでも借金は返済しきれないので、次には年金などの社会保障が取り崩されていく。

日本人の生活水準はそうして徐々に悪化し、生活苦にあえぐ日本人が増え、いよいよ打つ手がなくなる。最終的には見たくもない破産劇が待っている、と」

資産をどう防衛するか

――それでも、日本人の多くはカラシニコフを手に取ることはできない。この国に住み、この国で働いている以上、簡単に去ることもできません。

結局、個々人がみずから生活防衛をするしかない。そこで聞きたいのですが、多くの日本人は銀行預金におカネを置いていますが、これは危険でしょうか。

「いえ、日本人が資産を銀行に預けているのはむしろ賢明な判断です。なぜならいま世界を見渡してみると、ほかの国々の通貨は円より危険だからです。

世界の投資家たちは欧州通貨のユーロなどへの懸念を高めていて、円は持っておくのに『より悪くない通貨』と化しています。

実際、円はいま1ドル=110円近辺でとても安定し、これからもしばらくこの安定状態が続くでしょう。だから、いまは資産を円建てで持つことを心配する必要はありません。

しかし、あなたがいま10歳の日本人であるならば、円を持っていることは懸念すべきことだと言わざるを得ない。国家破産が起きれば通貨は暴落します」

――では、長い目で見た時に資産をどこに置くのが賢明な選択となるのでしょうか。あなたは子どものために金(ゴールド)を所有していると聞きました。また、金価格が1オンス当たり1000ドルを下回ればさらに買い増したいとも。

「そうです。いま金は価格が高いので買っていませんが、また安くなった時には買い増す予定です。自国の資産価値が落ちる時には、実物資産である金を所有するのは正しい選択なのです。

最近では金投資にかわるものとしてビットコイン投資も流行していますが、私はビットコインを売買したことはありません。仮想通貨はさらに普及していくでしょうが、ビットコインが仮想通貨の中心になるかは懐疑的だからです」

――やはり「有事の金」こそが資産防衛の最良の一手となる。

「中国株への投資も魅力的です。というのも、日本と同様、アメリカもまた巨額の債務を抱え、その額はリーマン・ショック時よりも大きくなっています。欧州も似たようなもので、中国も莫大な借金を抱えているのですが、中国はほかとくらべてまだマシ。

そういう意味では、中国株への投資はまだ魅力的といえます。私も子どもに中国語を習わせています。とはいえ……」

――なんでしょうか。

「日本人にとって一番の解決方法は、将来にツケを回すような政府を退陣させることなのでしょう。

日本国民がイニシアティブを取り戻して、国の借金を減らし、人口を増やす構造改革に着手する。そうするだけで、状況はいまよりずっと改善すると思います。日本人は早く動き出すべきです。日本の破産はもうすでに始まっているのですから」

【聞き手・飯塚真紀子(在米ジャーナリスト)】

「週刊現代」2017年12月16日号より