ゾピクロン(アモバン®)とエチゾラム(デパス®)がようやく向精神薬に指定された今,ベンゾジアゼピン系薬剤(以下,BZDs)の使用を再考すべきです。BZDsは使い方が悪いとQOLを悪化させ,また依存や離脱症状を来し,医師-患者間のみならず社会的な問題にもなります。今回はそんなBZDsの“適正使用”について考えてみましょう。
ちなみにゾルピデム(マイスリー®)やゾピクロンなどはBZDs特有の化学構造を有していないためnon-BZDsと呼ばれますが,作用部位や効果,副作用が同一なため,今回はそれも含めBZDsとします。そのほうが合理的であり,“non-BZDs”としてことさらBZDsとの差異化を図ることは,誤解を招くことにもつながりかねません。
■FAQ1
BZDsのメリットやデメリットは何ですか?
BZDsはGABAA受容体にあるベンゾジアゼピン結合部位に働き,効果を発揮します。各BZDsの作用はGABAA受容体を構成するαサブユニットの種類によって異なるとされ,例えばα2サブユニットを含む受容体に好んで働くBZDsは主に抗不安作用や筋弛緩作用を持ちます。抗けいれん作用を持つものもありますが,多くの医師が期待するのは抗不安や催眠の作用でしょう。BZDsは筋弛緩作用や鎮静作用,抗不安作用などを有し,作用の強弱,さらに半減期の違いによって個々の薬剤の“顔つき”が浮かび上がります。それらの特徴が,そのまま「メリットにもデメリットにもなる」と,大まかに(あくまでも大まかに)考えておきましょう。
その他のデメリットとしては“脱抑制”があり,服用すると攻撃的・衝動的になります。そのハイリスク要因は,アルコールの同時摂取,大量服用,変性疾患の存在,もともとの衝動性傾向が強い患者などです。また,睡眠中の奇異行動(起き出してご飯やお菓子を食べる,車を運転するなど。しかも本人はそれを覚えていない!)といった症状も認められます。身体・精神の両面で依存を形成することは周知の事実で,減量・中止の際に離脱症状もあり,ここがBZDsの泣きどころ。例えばジアゼパム(セルシン®,ホリゾン®)では,依存は毎日服用していると1か月ほどで形成されることがあり,8か月では半数近くの患者さんにもたらされると言われています1)。最近の報告では認知症との関連は否定的であることから2),そこを強調する必要性は低くなっているかもしれません。
CYP阻害はほぼないものの,ほとんどのBZDsはCYP3A4で代謝されることから,その酵素を阻害する薬剤によって作用が増強され,酵素を誘導する薬剤によって作用が減弱される点には注意が必要です。また,BZDsは血中蛋白結合率が高いことから,多剤併用時には他の薬剤の効果を読みにくくしたり,血中蛋白の乏しい高齢者では常用量でも強い作用をもたらしたりすることがあります。
Answer…各BZDsの持つ種々の作用や半減期の長短が,メリットにもデメリットにもなります。他には脱抑制や睡眠中の奇異行動,依存,離脱症状などが挙げられ,CYP3A4に作用する薬剤との相互作用や血中蛋白結合率の高さにも注意を要します。
■FAQ2
離脱症状にはどのようなものがありますか? また,離脱症状に気付くポイントは何ですか?
離脱症状は非常に多彩です。不安,イライラ感,不眠,インフルエンザ様症状,振戦,種々の知覚異常,集中力低下などなど……,他にもあまたの症状が出現し,少数ながらけいれん発作や幻覚,妄想なども認めます。まさに“何でもアリ”で,原疾患の症状とも区別しづらいのです。大事なのは,BZDsの減量・中止から比較的速やか(多くは1~2週以内)に何らかの症状が出現した場合,離脱症状を真っ先に思い浮かべることです。そして経験的ではありますが,減量・中止したBZDsを戻して症状がすぐに改善するのなら,離脱症状の可能性はさらに高まるでしょう。
医師が離脱症状を離脱症状として認識しなければ,「原疾患の悪化」や「身体化」,「不定愁訴」とラベリングして適切に対処しないままとなり,患者さんも「お薬をやめたら悪化した。まだ治っていないんだ」と考えてしまいます。その損失がとても大きいのは,想像に難くありません。離脱症状が医師に認識されず,症状が改善されない場合,患者さんは解決をインターネットに頼ることがあります。そこにはさまざまな情報が氾濫しており,医療そのものを敵視している内容も見受けられます。その結果,患者さんは医師を信じられなくなり,関係性が破綻を迎えるばかりか,ひいては医療全体に不信感を持つこともあるのです。離脱症状は軽視されてきた歴史も含め,医療の負の側面であり,非常に繊細な対応が要求されます。
Answer…離脱症状は“何でもアリ”なので,それをそれと認識することが第一歩。医療そのものへの不信感にもつながりかねないので,慎重に扱います。
■FAQ3
BZDsをどう使うと良いですか? 患者さんへの伝え方はありますか?
BZDsは“不安”と“不眠”というありふれた症状に対応でき,投与したその日から効果を示すという,実に使い勝手の良い薬剤です。患者さんも不安や不眠を早く解消したいため,薬剤の効果だけを考えるとお互いの利害は一致しています。しかしその結果,乱用と言われても仕方がない状況になっているのも事実。
投与する際はFAQ 1で挙げたデメリットへの注意が必要であり,漫然とした投与を避けることが欠かせません。依存と離脱症状の説明は投与前に必ずしておきましょう。例えば,依存については「毎日飲んでいると,不安だから飲んでいるはずのものが,“飲まないと不安”になってしまってお薬を手放せなくなることがあるんです」,離脱症状については「このお薬をずっと飲んでいると,急に減らしたりやめたりしたときに身体がびっくりすることがあります」など,日常語を用いて話をしてみます。そして,週に2回程度を上限とした頓服とすること,連日投与の場合は期間を1~2週間とすることを医師と患者さんとの間で必ず合意しておきましょう。投与する薬剤が効き過ぎる可能性も伝え,その際はそれ以上服用しないか半量に減らして服用するようにしてもらいます。
しかし,何よりも大事なのは,医師も患者さんも“BZDsは問題を先送りにする薬剤”だという認識を持つこと。先送りにする力しかないので,服用するだけでは問題は解決されず,後で苦労します。ただし,先送りにできると考えるならば,今の苦しさがいくばくか和らぐことを意味します。そのほぐれた部分に医師が注目し,患者さんが主体的に解決へ向かうための努力を日々の診察の中で焦らず少しずつ後押しできれば,BZDsは“良い薬剤”となり,松葉づえとして働いてくれることでしょう。薬剤そのものの効果だけに頼るのではなく,そこに安心や希望を乗せるような工夫が肝要です。実際に薬剤を服用するのは患者さんなので,処方してオシマイではなく,患者さんの“腑に落ちる”ように毎回の診察で対話をします。
“精神療法”と聞くと精神科医の行う特殊な治療法なのだと身構えるかもしれませんが,このようなちょっとした配慮を地道に積み重ねることも立派な精神療法ではないでしょうか。大げさではない“小文字の精神療法”は誰しも行えることであり,誰しも行わねばならないことなのだと感じます。
Answer…依存や不要な副作用をもたらさないよう,処方に縛りを設けましょう。BZDsは問題を先送りにする薬剤なので,使用するならばそれをメリットにするよう腐心します。
■もう一言
今回は触れていませんが,BZDsを減量中の患者さんにも相応の配慮が必要です。BZDsを中止することは,あくまでも豊かな人生のための“手段”なのですが,それが“人生の目標”となってしまっている患者さんも多く,人生の目標や価値を医師からあらためて問う必要性も出てきます。さまざまな情報に踊らされやすくなる時期でもあるので,減量中の患者さんが感じる不安や孤立を理解しようとする姿勢が大事でしょう。BZDsの特性や減量の簡単な説明には,東京女子医大病院が作成したパンフレット3)が参考になります。また,BZDsはアルコール依存症の離脱症状予防やその治療,カタトニア(さまざまな精神疾患で現れる運動症状の一群)の治療には必須の薬剤であることも付記しておきます。
BZDsは絶対悪ではありません。医師の使い方によって,そして患者さんの置かれた状況によって,その立場が変わり得ると心得ておきましょう。