(前略)
1998年5月、性的サービスに従事する人々の保護を目的とし、セックスを売ることではなく買うことを禁じた「セックス・ショップ法」、すなわち「買春禁止法」がスウェーデン議会を通過した。当時、保守派陣営の間では大反対が巻き起こったが、2006年の調査では国民の8割が支持するという結果が出て、以降現在に至るまでほぼ国民的コンセンサスを得ている。
ノルウェー、アイスランドなど他の欧州国も、スウェーデンにならって同じような法制度を導入している。イングランド、ウェールズ、フィンランド、フランスなど多くの欧州国も性サービスの購入に制限を課したり、議会に法案を提出するなどの動きが継続的に見られる。
この2013年5月で、スウェーデンの買春禁止法成立から15年が経った。
(中略)
また、この法の策定に大きく寄与した司法委員会委員長モルガン・ヨハンソン氏は、「セックス購入法の目的は、多くの人を刑務所に送ることではなく、セックスの売買を阻止することであり、これが十分に成功したことに意味がある」と言う。
同氏によると、この法の目的は個々のセックスの買い手だけでなく、組織化された人身売買を取り締まることだ。この法律がなければ組織的売春がより広範囲になる。「近隣のデンマークやドイツなど他の国々と比較しても、スウェーデンでの売春と人身売買は少ない。需要が減退したことは、法律の効果があったということだ」とヨハンソン氏は述べている。
また同氏は、買春を取り締まる一方、同時に売春から抜け出したい人への社会サービスと支援をよりいっそう充実させる必要があり、その責任は今日のように国ではなく、自治体にあるべきだと話している。
(中略)
オランダは、売春合法、ドラッグ合法、安楽死合法、同性の結婚も世界に先駆けて合法化した。根底に「個々の人間の自決権」に重きを置いているからだ。
これについて、アムステルダムから来ていた留学生の子と話したことがある。
彼女によると、「こういった犯罪は、一定程度まで合法化して透明化した方が社会全体が健全になると政府は考えている。法規制を強めても、犯罪行為がさらに地下に潜ってアンダーグラウンドではびこり、黒い暴力組織の資金源になるだけだからだ」と言っていた。
そして、多くの国民はこの国のあり方を「民主主義の高度な形態」「自由な社会」として、誇りに思っている。
それに比べるとスウェーデンは、例えばアルコールは依然として専売制、ドラッグに関しても厳しい法律で取り締まっており、現在はドラッグユーザー数は西側世界で1番低い国の1つになっている。海外でセックスを買った国民を罰する法も、近々成立しそうだ。などなど、「あれもダメ」「これもダメ」と規制だらけの社会だ。
(中略)
売春が合法化されているドイツ、オランダ、デンマークなどの「成熟した大人社会」「民主主義の発展した国家」で今起きていることは何か。
2013年1月号の「ワールド・デベロップメント」誌に掲載された論文「売春の合法化は人身売買を増大させたのか」によると、送り込まれる人身売買の犠牲者数が「非常に多い」とされた国は、米国、ドイツ、オランダ、日本、ベルギー、ギリシャ、イスラエル、イタリア、タイ、トルコとなっており、売春が合法化されている国、あるいは非合法ではあるが法が機能していない国である。また、ほぼ欧州国に偏っている。
売春が合法化されていても、「現代の奴隷制」である人身売買はほぼ全世界で違法だ。性的人身売買については前回触れたが、主に女性、多くは未成年者を暴力や脅迫によって強制的に売春させ、多くの利益を吸い上げるビジネスである。そして売春を合法化した国が、この人身売買という違法行為、つまり犯罪の温床となっている。
(中略)
女性権利団体Terre des Femmesのアンナ・ヘルマン氏は、女性の多くはロシアやウクライナ、東欧、そしてアフリカからで、ドイツの都市でのホテルやレストランの仕事という宣伝文句で募集されて来る。大抵は不法滞在なので、警察に見つかって国外退去させられることを恐れており、そのために逃げることができない。同氏は、ドイツが売春を合法とした後、犯罪組織が同法を違法行為の抜け道として利用するため、犯罪の摘発を困難にしていると言う。
スウェーデンが買春を違法とした同じ1999年に、デンマークは売春を合法化した。以降デンマークは、スカンジナビア最大の買春天国となっている。デンマーク反人身売買センターによると、国内に4000人から5000人の売春婦がいると推計され、その半数は東欧とアフリカから来ており、多くは人身売買の犠牲者と考えられている*9。
(中略)
女性の性を利用してビジネスをする側の連中にとって、ドイツやオランダモデルは大歓迎だ。「売春合法化」の背景には、恐らく大量の賄賂が流れているのではないのか。欧州の中でも、一国の警察機構よりも、犯罪組織の方がカネと権力を持っているように見える国もある。政府機構そのものが、収賄をかき集める犯罪集団となっているように見える国も、ないでもない。
(中略)
売春をしたくてやっている人は、少数ではあるだろうが存在するだろう。彼らの権利もないがしろにされるべきではない。しかし社会的・経済的不平等のために売春を強いられている多くの女性たちがいる限り、この不平等を克服していくことを基本にするべきであると思うし、この理念に立脚して政治政策が作られる社会は、より健全で解放された社会であると思っている。
日本でも「奴隷はけしからん」という人が大半でしょうが、実はそう言っている一般の人たちに、『現代の奴隷制度存続』に協力したり、支持している人たちがいるのも事実でしょう。
「送り込まれる人身売買の犠牲者数が「非常に多い」とされた国は、米国、ドイツ、オランダ、日本、ベルギー、ギリシャ、イスラエル、イタリア、タイ、トルコとなっており・・・」
と、こんな不名誉な結果を見ると情けなくなります。(一部の国と違って『臓器』のための人身売買はしていないと思いますから、性的な仕事用の『現代の奴隷』がほとんどでしょう。)