選挙中、 大久保利通暗殺の刺客が書き残した「斬奸状(ざんかんじょう)」を思い出していた。「斬奸状」とは、悪者を斬り殺すにあたり、その理由を書いた文書である。
その一、議会を開かず、民権を抑圧し、政治を専制独裁した罪。
その二、法令を乱用し、私利私欲を横行させた罪。
その三、不急の工事、無用な修飾により、国財を浪費した罪。
その四、忠節、憂国の士を排斥し、内乱を起こした罪。
その五、外交を誤り、国威を失墜させた罪。
1878(明治11)年5月14日、内務卿・大久保利通が東京府麹町区麹町紀尾井町清水谷で、不平士族6人に暗殺された。「紀尾井坂の変」である。この時、刺客の島田一郎らが持参していた斬奸状には、五つの罪が書かれていた。
『朝野(ちょうや)新聞』だけが、この斬奸状を報道したが、なぜか即日発行停止になった。明治政府は「暗殺の動機」を必死で隠した。
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むろん刺客の言い分に与(くみ)するつもりはないが、権力はいつの時代も、驕(おご)り、腐敗する。それが原因で、権力者に対して「暗殺=テロ」が計画される。
明治維新もそうだったが、成功すれば「革命」である。失敗すれば刺客は歴史から抹殺される。
大久保利通は「近代国家の建設に尽くした政治家」と高く評価され、刺客は歴史から抹殺された。
だが歴史を振り返ると、彼らの言い分にも「理」があったのでは!と思っている。ごく簡単に、当時の政局を説明しよう。
この頃、明治政府は対朝鮮対策で混乱していた。
征韓論の対立だ。西郷隆盛は「朝鮮王を説得し、平和裏に開国させる」と主張したが、大久保らはこれに反対。西郷の遣韓使節計画を潰し、西郷、江藤新平、板垣退助らは下野し、西郷は反政府の戦いに決起した。西南戦争である。
西郷は「朝敵」とされ、明治10年9月24日、この戦いに敗れ戦死した。49歳だった。
その翌年の大久保暗殺である。「西郷贔屓(びいき)」の世論が確実に存在していた。明治政府が 「斬奸状」を隠したのは、このテロが庶民の喝采を浴びることを避けたかったからだ。
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斬奸状の「五つの罪」をもう一度、読み返してみると、そこには今、安倍晋三首相のもとに集中している「庶民の怒り」が列記されているようではないか?
斬奸状(1)「議会を開かない罪」=森友・加計(かけ)疑惑を説明する!と言いながら、審議に入らずに解散した。
その(2)「法令乱用、私利私欲の罪」=憲法違反の安保法成立を強行。「安倍さんのために嘘(うそ)をつく公務員」を抜擢(ばってき)する。
その(3)「国財浪費の罪」=貧乏なのに東京オリンピックを無理やり招致。五輪工事で、被災地の復興が遅れる。森友に国有地を8億円も安く払い下げ、国民は大損だ。
その(4)「内乱を起こした罪」=格差が広がり「富める者」と「持たざる者」の争いが先鋭化。そればかりではない。例えば、カジノ利権獲得を巡って、省庁が権力争い。そこかしこで「内紛」が起こっている。
その(5)「外交失墜の罪」=トランプ米大統領の言いなりで、「不平等条約」を放置。対北朝鮮では「圧力」「圧力」ばかりで、外交努力がまるでない。
まったく、あの頃と同じではないか? 140年前の斬奸状を安倍さんに読んでもらいたい気持ちである。
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「森友・加計隠し」の解散・総選挙。(この時評は、投票日前に書いているので、結果は分からないが)終わってみれば、野党が分断され、より複雑な政局になるだろう。安倍首相が続投する気配濃厚である。
これで良いのか?日本は。どうなるのか?