2学会が異議申し立て、厚労省も厳重注意

2学会が異議申し立て、厚労省も厳重注意
2月にNHKが放映した「ガッテン!」で睡眠薬のベルソムラの適応外処方を推奨するかのような内容を放映したことに関連し、医療現場では患者が処方変更を申し出たケースがあったほか、その要望に応えてもらえなかった患者で精神状態が不安定になるなどの事例が起きていたことがわかった。東京大学大学院 薬学系研究科 育薬学講座の鈴木陽代氏が、同番組に対する医療従事者へのアンケート調査の結果を第20回日本医薬品情報学会学術集会で発表した。

問題となった番組は、2017年2月22日のNHKの情報番組「ガッテン!」の「最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」。同日の放送では熟睡をもたらす脳波としてデルタ波を取り上げ、デルタ波を定量化したデルタパワーが熟睡度を左右するとし、なおかつこの数値が高いと血糖降下作用があると紹介した。そのうえ睡眠薬・ベルソムラ(一般名:スボレキサント)の商品名が入ったパッケージを放映。大阪市立大学の研究としてベルソムラを服用した糖尿病患者では血糖低下効果があり、副作用はほとんどないなどと放送した。血糖降下作用はベルソムラの承認適応ではなく、この放送に対しては日本睡眠学会と日本神経精神薬理学会がNHKに対して異議を申し立て、厚生労働省もNHKに口頭で厳重注意を行った。NHKは2月27日になり、番組のHP上で行き過ぎた表現で誤解を与えたとして謝罪に至った。

鈴木氏らは同講座が構築した医師向けインターネット医薬品情報提供サイト「医師のための薬の時間」(通称:アイメディス)、インターネットの薬剤師間情報交換・研修システム「薬剤師さん!頑張ろう!」(通称:アイフィス)を通じ、番組放送2週間後の3月7~22日にアンケートを実施。医師37人、薬剤師152人の合計189人が回答を寄せた。

処方希望を断られ、精神状態が不安定になった事例も
番組については実際に視聴して知っていたのが医師では38%、薬剤師では26%、番組は視聴していなかったが後日問題を報じたニュースなどで知っていたのが医師では54%、薬剤師では62%で、最終的に回答した医師の92%、薬剤師の88%がこの問題を認知していた。

番組の影響を受けた患者の行動を経験した医師は24%、薬剤師は37%。回答医師が経験した事例は15件で、内訳は「患者がベルソムラの処方を希望したが、処方はしなかった」が11件、「患者がベルソムラの処方を希望し、処方した」が3件、「ベルソムラに関する問い合わせ」が1件。このうち神経症と糖尿病を合併していた患者の処方希望を断ったケースでは、処方希望を断られたことによる不満で患者の精神状態が不安定になり、抗うつ薬のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の処方を余儀なくされた、との回答が寄せられた。

また、薬剤師が経験した事例は71件で、「ベルソムラに関する問い合わせ」が47件、「ベルソムラの新規処方」が12件、「他の薬剤からベルソムラへ変更」が8件、「医師から薬局への問い合わせ」が2件。具体的な事例では、睡眠障害のない糖尿病患者が番組を見て医師にベルソムラの処方を依頼。実際に処方を受け、薬剤師に血糖降下作用を尋ねたため、睡眠薬に血糖降下作用がないことを説明した。結局、薬剤師からの疑義照会により、ベルソムラの処方は中止となり、糖尿病治療薬を変更して経過観察する方針になったという。

一方、肯定、条件付き肯定、否定の3カテゴリーに分けて設定した選択項目を選んで番組に対する意見を尋ねた(複数回答)ところ、否定意見のみを選択したのは医師の70%、薬剤師の46%、肯定意見のみ選択したのは医師の11%、薬剤師の14%で、圧倒的に否定的意見が多かった。選択項目別で多かったものは、医師では「このような情報(適応外)は提供しない方がよい」が62%、「患者の薬に対する意識に悪影響を及ぼす」が49%、「医師としては迷惑であり、ある種の診療妨害である」が43%だった。薬剤師では「患者の薬に対する意識に悪影響を及ぼす」が61%、「このような情報(適応外)は提供しない方がよい」が59%、「医療従事者に迷惑であり、ある種の診療妨害である」が35%だったが、「患者と薬剤師のコミュニケーションのきっかけになる」というも回答も27%にのぼった。

今回の結果を受けて鈴木氏は、医療現場への影響が大きく対応に苦慮するケースも見られたこと、また全体的に否定的な意見が多かったとして「今後は健康情報番組の在り方について、番組制作関係者、医療関係者、視聴者などで広く議論されるべき」としている。