オリバー・ストーンが明かした“日本のインフラにマルウェア”のスノーデン証言
週刊新潮 2017年2月2日号掲載
1月27日公開の映画「スノーデン」には衝撃的なシーンがある。もし、日本が米国の同盟国をやめたら、米国によって日本中に仕掛けられた不正プログラムが起動し、大パニックを引き起こす……。オリバー・ストーン監督(70)が描く世界は決して夢物語ではない。
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2013年、NSA(米国家安全保障局)の元職員、エドワード・スノーデン氏(33)が、米国が世界中のメールやSNS、通話を国家ぐるみで監視していると暴露した。主要各国の指導者や大使館、国連本部などに対しても、監視、盗聴が密かに行われているという驚くべき内容で、“スノーデン旋風”を巻き起こしたのはご存じの通りだ。
そのスノーデン氏の半生を、「プラトーン」「7月4日に生まれて」など数々の社会派作品で知られるオリバー・ストーン監督の手で映画化したのが、「スノーデン」である。
そのなかで、とりわけ日本にとって衝撃的なのは、横田基地での勤務を回想するシーン。
米国によって、送電網やダム、病院などの社会インフラに不正プログラムが仕込まれ、もし日本が同盟国でなくなったら不正プログラムが起動し、日本は壊滅するとスノーデン氏が証言する。そこに挿し込まれるのは、日本列島から灯りが次々に消えていく映像……。
電力を失えば、福島でのように原発は制御不能に陥り、メルトダウンに突き進む。
日本が、大パニックになるのは間違いない。
来日したオリバー・ストーン監督は、1月18日の記者会見で、次のように説明した。
〈スノーデン自身から僕が聞いたのは、米国が日本中を監視したいと申し出たが、日本の諜報機関が“それは違法であるし、倫理的にもいかがなものか”ということで拒否した。しかし、米国は構わず監視した。そして、同盟国でなくなった途端にインフラをすべて落とすようにインフラにマルウェア(不正プログラム)が仕込んである、というふうなことです〉
さらに、
〈そもそもの発端は、07、08年頃から、イランにマルウェアを仕込んだことから始まります。(略)このときのウィルスは、スタックスネットというウィルスなのですが、イスラエルとアメリカがイランに仕掛けたものです。非常に醜い物語です。このウィルスが発端となって、世界中に“ウィルス攻撃ができるんだ”と、サイバー戦争というものが始まっていきました〉
オリバー・ストーン監督が口にしたスタックスネットというウィルスは、どのようなものなのか。
ITジャーナリストが解説する。
「そのウィルスは、10年にイラン中部のナタンズにある核開発施設の制御システムへの侵入に成功し、ウラン濃縮用の遠心分離器約8400台を稼働不能にしました。その結果、イランはウラン濃縮を一時停止し、核開発は大幅に遅れることになったのです」
単に、侵入先のコンピューターから機密データを盗んだり、破壊するのではなく、社会インフラを攻撃する、いわば“兵器”だという。
「通常、社会インフラの制御システムは安全性を保つため、インターネットには接続せず、クローズドの状態に置かれている。しかし、制御システムもメンテナンスのためにアップデートしなければなりません。その場合、他のパソコンでアップデート情報をダウンロードし、USBメモリで移し替えるのですが、そのパソコンをスタックスネットに感染させておく手口が使われます」(同)
一昨年の暮れには、ロシアの関与が強く疑われるサイバー攻撃によって、ウクライナが大規模停電に見舞われた。このときに使われたウィルスもスタックスネットと同じく、“トロイの木馬型”と呼ばれるものだった。
ただ、映画の原作となった『スノーデンファイル』や、『暴露』などの他の著書にも、米国が日本中の社会インフラにスタックスネットなどの不正プログラムを仕込んでいるという記述は見つからない。
しかし、オリバー・ストーン監督は、2年間で9度にわたってスノーデン氏にインタビューし、その証言を引き出したという。
■秘密プロジェクト“プリズム”
一方、別の見方をするのは、サイバーディフェンス研究所の名和利男上級分析官である。
「スノーデンは、NSAがマイクロソフトやグーグル、アップルなどのサーバーに直接アクセスし、情報収集している“プリズム”という秘密プロジェクトの存在を白日の下に晒しました。つまり、米国のIT企業は米国の諜報活動に協力しているわけです。ですから、わざわざ、後からウィルスを侵入させなくても、米国製コンピューターのハードウェアやOSには出荷時点で、米国に都合の良いシステムがすでに仕込まれている可能性があるのです」
実は、スノーデン氏が訴えたかったのは、米国製コンピューターが一部でも制御システムに組み込まれていれば、社会インフラは破壊されてしまうということではないかという。
米国は、片手で握手を求めながら、片手では殴りかかろうと拳を固めているのである。
日本安全保障・危機管理学会の新田容子主任研究員によれば、
「日本やドイツなど同盟国の首脳らの通信がNSAの監視対象だったと明るみに出ると、外交上、各国は一斉に猛反発し、当時のオバマ大統領は大統領令で、“今後は監視しない”と宣言するしかありませんでした。でも、15年、今度はウィキリークスが、日本の省庁などを盗聴していた事実を暴きました」
その結果、バイデン副大統領が日本政府に謝罪せざるを得なくなったわけだが、
「米国はそれ以降も、同盟国に対するサイバー攻撃を含んだ諜報活動を自粛しようともしていません。国際社会では諜報活動が当たり前のように行われる現実を前提にして、国家運営の舵取りをしなければならない。例えば、シンガポールではサイバー攻撃のリスク回避のため、この5月から公務員の使用するコンピューター約10万台のインターネット接続を遮断する方針を決めました。それくらい、徹底的な措置も必要になってくるのです」(同)
過激さを増すサイバー攻撃に手を拱(こまね)いてばかりいては、日本に残されているのは破滅の道しかないのである。