コンビニ奴隷

 セブン-イレブンをはじめとするコンビニチェーン本部のブラック体質については、本サイトでも何度も追及記事を掲載してきたが、ここにきて、衝撃の内部告発が収録されたドキュメンタリーが発表された。

 そのドキュメンタリーとは、PARC(特定非営利活動法人アジア太平洋資料センター)から発売された土屋トカチ監督の『コンビニの秘密 ―便利で快適な暮らしの裏で』(リンク)。

 この作品には、複数のコンビニチェーン店オーナーやアルバイト、さらには“加害者”サイドである大手コンビニチェーンの法務担当の元社員までが登場。各コンビニ店がいかに悲惨な状況に陥っているか、そしてコンビニチェーン本部がどんな手口で各店舗を奴隷のように支配しているか、その実態と手口を赤裸々に“暴露”しているのだ。

 現在、日本国内の店舗数5万5000店以上、総売上高約10兆5700億円を超える巨大業界に成長したコンビニだが、そのほぼすべてが「フランチャイズ・チェーン方式」の個人オーナー店舗だ。だがコンビニ本部とフランチャイズ店の関係はまさに奴隷支配のように不平等なもので、オーナーたちの多くが苦境に陥っているという。本作品ではコンビニチェーンのひとつ「ファミリーマート」フランチャイズ店オーナーの高橋義隆氏がその悲痛な状況を実名で赤裸々な告白をしている。
 
 高橋氏の両親は宮崎県で酒屋を経営していたが、1996年2月、4600万円を投資してコンビニをスタートさせた。しかし激務だったのだろう。父親はオープンからたった半年後の翌年9月に過労で急死する。享年42。当時、高校生だった高橋氏は、店を手伝わざるを得なくなった。

 そして、借金を返すために家族総出で働いたのだが、いっこうに借金は減らない。しかも、6年後、突然訪れた本部の部長にこう告げられたという。

「売り上げが悪いのはわかっている。採算が合わないのもお互いわかっている。私が来た以上、今月いっぱいで閉店してもらう」

 代わりに別の店舗を用意されたが、しかし移転先店舗は“本部から借りる”というこれまでとは違った契約。そのためロイヤリティーは跳ね上がったという。しかも売り上げも1日17万円程度。高橋氏はその生活を「地獄でした。働けど働けど利益は出ない」と振り返っている。

■コンビニオーナーの借金が増えるほど本部は儲かる、恐怖のシステム

 その後母親が懇願した末、再び駅前の店舗へ移転し、売り上げこそ上がったが、苦しい状況は変わらない。忙しくなってもオーナー負担の人件費など経費がかさむだけで、利益は上がらないのだ。そして3年前、母親も逝去してしまう。現在でもコンビニ店を営む高橋氏のもとには、いまも2000万円もの借金が残されているという。

「働けど働けど実入りは減っていく」。高橋氏のように、店舗オーナーの苦境にはいくつもの理由があるが、そのひとつが“コンビニ会計”だ。大手コンビニの平均ロイヤリティ(上納金)は60%。普通なら、販売価格から仕入れ値を引いた収益を分配するはずだが、しかしコンビニの場合は違う。売れ残った商品は仕入れ値に含まれず、オーナーの負担とされるからだ。つまりおにぎりやお弁当の売れ残り数によっては、オーナー側が簡単に赤字になってしまうし、処理費用もかかる。そういう契約、システムなのだ。

 そのためオーナーは見切り販売、つまり賞味期限が近づいた商品を値引きして売りたい。しかしそれを本部は認めない。なぜなら廃棄分は店舗負担だから、店舗が食品を捨てれば捨てるほど、本部は儲かるからだ。“食品ロス”で儲けるという、まさに異様なシステム。

 もうひとつオーナーたちを苦しめるのが特定地域に同じコンビニ店を集中させる「ドミナント」戦略だ。狭い地域に同じコンビニが乱立しているのを見たことがあると思うが、この戦略は同一のコンビニを集めることで、地域のシェアを高め支配的な(ドミナント)立場にできる。また、店さえつくっていれば本部は儲かるという構図もある。しかし、これはオーナーにとっては死活問題となる。ライバル店が増え、売り上げが減るだけだからだ。

 作品では「ドミナント」で店を奪われた形となった千葉県「セブン-イレブン」の元オーナー・佐々木則夫氏がこれを告発している。県内でも有数の売り上げを誇った店舗オーナーだった佐々木氏だが、本部が行ったドミナントはあまりに非道だった。

「本部から何の連絡もなく、来週オープンしますと。私にとっては死活問題じゃないですか」
「ドミナントされた途端、うち人手不足になったんですよ。コンビニで働く人間なんて限られるじゃないですか。私はお客さん取られるより、それがつらかった」

■「借金漬けで逃げられないように…」大手コンビニ元社員が“奴隷制度”のやり口を告発

 その後、売り上げも激減、そのため佐々木氏は見切り販売に踏み切る。しかしそれを認めない本部からの妨害にあい、追い詰められた佐々木氏は公正取引委員会に訴えるまでに至る。そして2009年、公取はセブン-イレブンに対し独占禁止法違反に当たると認め、排除措置命令が出された。が、しかしその後、セブン-イレブンは佐々木氏との契約を更新しなかった。つまり佐々木氏を廃業に追い込み、仕事を奪ったのだ。

 こうした問題は、オーナー側からの告発だけではない。冒頭に記したように “加害者”とも言える元本部社員からもそれは訴えられているのだ。登場するのは大手コンビニチェーンで法務担当をしていた鈴本一郎氏(仮名)だ。

 鈴本氏は本部の姿勢に異議を唱えたため、その職を追われたという経歴をもつ。

「あちこちでコンビニが散らばっている。あんなことありえないわけで。そうすると1店舗あたりの売上が下がってくる。下がっても良しとする、正当化する論理がドミナント・エリアという考えなんです。店さえつくっていれば儲かるのは加盟店に貸勘定が増えるからです」

 鈴本氏によれば、オーナーは“食品ロス”“ドミナント”で苦境に陥るだけでなく、システム上、借金も背負わされるという。コンビニ店舗には常にたくさんの商品を並べておく必要がある。そのためには仕入れのための資金が必要となるが、足りない場合は本部から借金をすることになるからだ。

「要は借金漬けにするんだよね。逃れられないように」
 
 鈴本氏は、コンビニのフランチャイズ契約は“奴隷制度”“人身御供システム”そのものだとまで言い切っている。しかも、こうしたコンビニの企業体質は店舗オーナーだけに向けられるものではない。それに疑問をもてば、本部社員だろうと容赦はない。

「およそ倫理観だとか正義感だとか、こんなことでいいんだろうかと思う人間は辞めてしまう」(鈴本氏)

 まさにブラック企業、そしてブラック業界そのものだが、元セブン-イレブン見切り妨害事件弁護団団長の中野和子弁護士は、「日本の一番悪いところは中小企業を守る法律がない」としてその問題店をこう指摘している。

■スポンサータブーでマスコミはコンビニ業界の問題点を報じず

「日本のコンビニは本部が強欲すぎる。コンビニの秘密は契約にあると考えています。365日24時間は運営するためにオーナーが働き続けなければならない。しかしそれは(契約書に)直接は書いていない。何時間かも書いていない。しかし契約書やマニュアルのなかで、これをやりなさいと定めている。その仕事量をこなすための従業員給料は極々限られている。従業員給料を捻出すると自分の取り分はなくなる。生きていくためには働かなくいけないが、契約書には明確に書いていない。これがコンビニの秘密」

 本作品では他にも自腹購入を強いられたアルバイト、「コンビニ加盟店ユニオン」関係者など、数多くの関係者が赤裸々な実情を訴えているが、確かに、コンビニ業界のさまざまな問題はこれまでも指摘されてきた。本サイトも、加盟店オーナーの“奴隷労働”の実情や、その挙げ句に自殺者にまで追い込まれたオーナーが数多く存在することも紹介してきた。また、2015年にはコンビニ業界最大手のセブン-イレブンが「ブラック企業大賞2015」に選ばれている。

 当然、社会問題化してもおかしくない事態だが、多くのメディアはこうした問題を取り上げることはなく、沈黙を守ったままだ。なぜならコンビニ業界、特にセブン-イレブンはマスコミタブーとなっているからだ。

 これも本サイトでも何度も指摘してきたことだが、コンビニ各社はテレビCMをはじめ、マスコミに巨大広告費を出稿している。つまりマスコミにとってコンビニ業界は貴重な大スポンサー様なのだ。また、スポーツ紙、週刊誌、新聞にとっては、コンビニはいまや書店に代わって最有力の販売チャンネル。なかでもセブン-イレブンに置いてもらえるかどうかは死活問題となっている。

 こうした状況下、新聞、テレビ、そして週刊誌までもがコンビニ業界に都合の悪い報道はできない状態なのだ。

 そう考えると、店舗オーナーの奴隷労働の実態や、ましてやコンビニ業界の生命線ともいえるブラック契約をえぐった本作品『コンビニの秘密』も、マスコミにスルーされるのは確実だろう。

 だが、私たちに身近な存在であり、また子どもも含む多くの人がアルバイトとして関わるかもしれないコンビニだからこそ、その実態を広く知らせる必要がある。YouTubeに予告編もアップされているようなので(リンク)、一人でも多くの人にこのドキュメンタリーを見てほしい。